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YO's ROOM 後藤洋の吹奏楽の部屋

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第4回:コンクールの後は、楽しみながら「リハビリ」を!

 吹奏楽コンクールシーズンもほとんどの地域で地区大会が終わり、「やれやれ」と残りの夏休みを過ごされている方々もいらっしゃるかもしれません(お疲れさまでした!)。

コンクールの演奏には、そしてもちろんそのための練習にも、全力で取り組みたいものですが、その分、無理もすることにもなります。どうしても難しい曲に挑戦することが多くなりますし、1年生をコンクールのメンバーに加えているバンドはとりわけ生徒に実力以上の要求をすることになり、基本を少しずつ習得する手順を飛び越してしまいがちです。したがって、コンクールが一段落したらあらためて基本に戻り、無理な奏法で荒れてしまった音や刺激的な響きに慣れてしまった耳を修復する「リハビリ」に取り組まれることをおすすめします。

しかし、コンクールが終わったからといって、吹奏楽部の活動が終わるわけではありません。むしろコンクール・シーズンは長い吹奏楽の活動期間の、ほんの一瞬なのです。「リハビリ」だからと基礎練習ばかりするわけにもいかず、曲は必要です。そこで今回は、秋からの活動におすすめの、演奏法やアンサンブルや音楽表現の基本を磨き、さまざまな演奏の機会に活用できる、やさしく、演奏しても聴いても楽しめる曲をご紹介しましょう。最上級生が引退して少人数になったバンドも多いはずですので、小編成向きの曲が中心です。

ニュー・ベネット・バンド・ブック Vol.1

ハロルド・ベネット/ラリー・クラーク編曲 New Bennett Band Book, Volume 1 Harold Bennett/arr. Larry Clark Grade 2 Carl Fischer

ニュー・ベネット・バンド・ブック Vol.1

1930年代に出版され、初級バンドのためのすぐれた教材としてアメリカで広く親しまれた「ベネット・バンド・ブック」が、現代のバンドに合わせて改訂され、再版されたのがこの曲集。楽しくやさしいマーチが12曲含まれ、吹奏楽の基本ともいえるマーチの形式やスタイルが学べるだけでなく、行事等で活用できる貴重なレパートリーにもなります。マーチにはつきもののホルンのあと打ちがないのが嬉しい! どの曲もほぼ五声体で書かれているので、かなりの少人数でも演奏可能です。参考演奏のCDも付いていて、ますます嬉しい!

私のやさしいお父さん

ジャコモ・プッチーニ/ジョニー・ヴィンソン編曲 O Mio Babbino Caro Giacomo Puccini/arr. Johnnie Vinson Grade 2 2:00 Hal Leonard

私のやさしいお父さん

プッチーニの歌劇《ジャンニ・スキッキ》で、主人公の娘ラウレッタが結婚を願って歌う有名なアリエッタ。非常にやさしいアレンジですが、柔らかい上質なサウンドに彩られ、名旋律を無理なく楽しみ、学ぶことができます。練習曲として、また美しいコンサート・ピースとして、広い層のバンドにおすすめの曲。
20~25人程度から演奏できます。ハープの役割のシンセサイザーが編成に加えられていますが、ピアノでも問題ないでしょう。

記念祭

ロバート・W. スミス Commemoration Robert W. Smith Grade 2 3:40 Belwin (Alfred)

記念祭

コンサートの幕開けの曲としておすすめ。20年近く前に出版され、2011年秋に再版されたスミスとしては初期の作品で、やさしい割に演奏効果が高く、非常にすぐれた内容の1曲です。

 このグレードの曲としては珍しく、トゥッティではなく木管と金管の音色の対比でサウンドが組立てられ、色彩は豊か。特に木管のアンサンブルの響きが印象的です。あれこれ欲張らず、限定されたモティーフを上手に展開し、無駄なく全体を構成しているため、非常にまとまりがよい点も大きな特徴。音楽構成の基本を理解するための教材としても活用できるでしょう。

クラリネットとトランペットは2パートずつで、それ以外の楽器は1パート。打楽器は6人要求されているものの、4人いれば音楽的には支障ありません。バンド全体で20人以下でも十分に演奏が可能です。

メトリックス

ロバート・シェルドン Metrix Robert Sheldon Grade 2.5 3:10 Alfred

メトリックス

これもコンサートのオープニングにぴったりの、躍動感とスピード感に溢れた作品。
A~B~Aの三部形式で、Aの部分は4分の5拍子(8分の6拍子+4分の2拍子)が中心なので、リズムのよい勉強にもなります。伸びやかな旋律を聴かせる中間部では2分の3拍子となりますが、テンポは終始同じ。息のスピードを生かして弾むようなリズムを表現することと、同じテンポの中でさまざまな音楽的な表情の変化と場面の転換を描くことが課題となりそうです。5拍子に抵抗のある方もいらっしゃるかもしれませんが、音楽はとても自然に進行するように書かれており、実際の演奏はそれほど難しくはありません。ぜひトライしてみましょう。

クラリネット、アルト・サクソフォーン、トランペット、トロンボーンのみ2パートで、他の楽器は1パートずつ。ただしアルト・サクソフォーンはひとりでもほとんど問題ありません。バンド全体では25人かそれ以下でも大丈夫です。

ジャングル・ダンス

ブライアン・バルメイジェス Jungle Dance Brian Balmages Grade 2.5 3:00 FJH

ジャングル・ダンス

楽しい曲です! ごくシンプルな旋律が何度も繰り返され、その旋律自体は(テンポも)変化しないのですが、その音色や、伴奏の和声や、リズムが多様に変化していく、というコンセプトの音楽で、打楽器セクションは終始活気あるリズムを奏し続けます。使用されている打楽器はヴィブラフォーン、マリンバ、テンプル・ブロック、アゴーゴー・ベル、カバサ、クラベス、コンガ、シェイカー、ギロなど、ラテン・パーカッションを中心に多数。打楽器の演奏者は8人要求されていますが、多少の重複や省略があっても大きな問題はなく、また指定された楽器がない場合は他で代用してもかまいません。バンド全体は20~25人程度から演奏可能です。

打楽器セクション以外にもさまざまな楽器に主役が回るように配慮されているので、バンドのメンバーの意欲を高めるためにも有効な曲です。また音色やテクスチュアの変化に目を向けることで、音楽構成のよい勉強にもなるでしょう。

アヴェ・ヴェルム・コルプス

エドワード・エルガー/ロベルト・ヴァン・ベリンヘン編曲 Ave Verum Corpus Edward Elgar/arr. Robert van Beringen Grade 2.5 3:30 De Haske

アヴェ・ヴェルム・コルプス

カトリックの礼拝における聖体賛美歌『アヴェ・ヴェルム・コルプス』(めでたきかな、乙女マリアから生まれしまことの御体よ)は、モーツァルト晩年の作品が最も有名ですが、これはエルガーが1887年に作曲したオルガンと合唱のための作品で、その天上的な美しさはモーツァルトに比肩するほどです。編曲もその美しさを生かした見事な内容。それぞれの楽器の音色を生かし、木管と金管のサウンドを鮮明に対比させながらも、全体を柔らかな色彩で調和させることに成功しています。

技術的には平易ながら、音楽として表現するのはなかなか大変かもしれません。出版社の定めたグレードは2となっているものの、実際には2.5かそれ以上でしょう。静かで格調高いコンサート・ピースとして、またソステヌートの表現やサウンドづくりの練習曲としておすすめです。

20人程度から多人数まで、幅広い編成で演奏可能で、打楽器は3人のみ。金管バンド版もあります。(金管バンド版はこちら

モンテローシ

ヤコブ・デ=ハーン Monterosi Jacob de Haan Grade 2.5 4:00 De Haske

モンテローシ

ゆっくりとした美しい曲です。映画音楽風で抒情的な性格が強く、ドラマティックに盛り上がる場面もあり、コンサート・ピースとしてだけでなく、卒業式などの行事でしみじみとした気分を演出したい時にも効果的に活用できるでしょう。曲名はイタリア中西部、ラーツィオ州ヴィテルボ県にある村の名で、この作品はその村にある音楽院が主催する吹奏楽コンクールの開催を祝って作曲されました。

旋律だけでなくハーモニーも非常に美しいので、響きを大切にして丁寧に演奏したい作品。25人程度から演奏可能で、これも吹奏楽版と金管バンド版があります。(金管バンド版はこちら

スプリング・ソング

ヤン・デ=ハーン Spring Song Jan de Haan Grade 3 3:45 De Haske

スプリング・ソング

ヤコブ・デ=ハーンの兄ヤンが作曲した、これもゆっくりとした抒情的な小品。しかし単純に美しい旋律が歌われるのではなく、和声が非常に多彩で、また対位法的なテクスチュアも豊富です。音楽の表情は時に穏やかに、時に感傷的になり、またダイナミックに高揚してファンファーレも鳴り響くという、短いながら実に内容の豊かな作品で、その豊かさが見事な形式美の中にバランスよく配されています。技術的には中級レベルですが、上級バンドが真剣に取り組むに値する秀作と言ってよいでしょう。コンサートにはもちろん、各種行事(特に卒業式や入学式)での演奏にもおすすめです。

編成はほぼ標準的。打楽器は3人での演奏が可能。この曲も金管バンド版が発売されているので、注文の際はご注意ください。(金管バンド版はこちら

希望の歌

ヤン・ヴァン=デル=ロースト Song of Hope Jan Van der Roost Grade 3 4:50 De Haske

希望の歌

2011年3月11日の震災の被災者のために作曲され、作曲者本人を客演指揮者に迎えたフィルハーモニック・ウインズ大阪の第11回定期演奏会(2011年9月25日、大阪市立総合文化センター・サーティホール)において、アンコール・ピースとして初演された作品。たくさんのメンバーで演奏できるやさしい曲を、と作曲を依頼したのは、CSデジタル放送の吹奏楽ラジオ番組『ザ・バンドワゴン』のディレクター/パーソナリティ、西田裕氏でしたが(やはり被災者に捧げられたフィリップ・スパークの《陽はまた昇る》も、西田氏の依頼で書かれています)、フィルハーモニック・ウインズ大阪からも同様の依頼があり、双方のリクエストに応える形でこの作品が生み出されました。

曲は順次進行を基本とした主題が形を変えて繰り返されるシンプルな構成。低い音域から暗く静かに始まり、少しずつ音域を高め、ボレロ風のリズムに導かれて明るさと力強さを増し、希望に満ちたクライマックスに到達します。

喜びと勝利の声を高く上げよ

ジェイムズ・スウェアリンジェン Raise Your Joys and Triumphs High James Swearingen Grade 3.5 4:20 Barnhouse

サクソフォニア

キリスト復活の賛美歌『主なるキリストは今日よみがえられたChrist the Lord Is Risen Today』(作曲者不詳。日本では『よびとようたえ』の歌詞で広まっている)の旋律によるコラール・プレリュード。作品のタイトルはこの賛美歌の歌詞の一部です。

スウェアリンジェンの作品としてはグレードが高いほうですが、日本のスクール・バンドにとっては、技術的にそれほど困難ではありません。ただ曲想やテンポが頻繁に変化するので、音楽構成と細部の表現に対する理解が必要でしょう。

多様な楽想が盛り込まれた序奏に続いて、木管のアンサンブルで賛美歌の原形が奏でられ、そのモティーフを用いて音楽はさまざまに展開し、後半は再び賛美歌がトウッティで力強く歌われます。最後はトランペット、トロンボーン各3パートずつのファンファーレ隊も加わり、壮麗なクライマックスへ。祝祭的な場面での演奏にふさわしい、美しく華やかで格調高い作品です。

編成はほぼ標準的ですが、30人程度から十分に演奏可能。ファンファーレ隊がない場合でも、音楽的に大きな支障はありません。

後藤洋プロフィール

後藤洋プロフィール

山形大学教育学部特別教科(音楽)教員養成課程卒業。東京音楽大学研究科(作曲)、ノース・テキサ ス大学大学院修士課程(作曲および音楽教育)をそれぞれ修了。日本とアメリカの両国において、吹奏 楽と音楽教育の分野を中心に作曲・編曲家として活躍。海外で出版される吹奏楽作品の紹介、また音楽 教育としての吹奏楽の研究においても、日本における第一人者。自身が監修・編曲した『合奏の種』 『合奏の芽』(ブレーン株式会社)は、音楽表現の基礎を楽しく学ぶ新しいアイディアの教則曲集として大 きな反響を呼んだ。

2011年、ウインドアンサンブルのための《ソングズ》により、ABA(アメリカ吹奏楽指導者協会)スーザ /オストワルド賞を受賞。また「ミッドウェスト・クリニック」(2006年および2010年、シカゴ)、世界シ ンフォニック・バンド&アンサンブル協会(WASBE)世界大会(2009年、シンシナティ)等、多くの国際 的な講習会で講師を務め、いずれも高い評価を得ている。

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