単なるライヴの記録ではなく
インタビューやオフ・ステージでの映像も加え編集した
ドキュメンタリー仕立ての内容

荒野政寿(CROSSBEAT)

作品解説 Liner Notes

1989年、処女作『レット・ラヴ・ルール』を引っ提げてレニー・クラヴィッツが忽然と登場した時の衝撃は今も忘れられない。時代は後のUSオルタナ・ブームの主役たちが、未だ地下でうごめいていたカレッジ・ラジオの隆盛期。

プリンスが超ポップに開き直った『バットマン』のサウンドトラック盤でメインストリームを席巻する一方、デ・ラ・ソウルらニュー・スクール・ヒップホップ勢の台頭が注目された年でもある。音楽シーン全体が来るべき90年代に向かって突き進んで行く変わり目の年にデビューしたレニーは、しかし手法としての斬新さではなく、徹底したアナログ・サウンドへのこだわりで、まず注目された。
レニーいわく「単にヴィンテージ機材云々ではなく、オーガニックなサウンドを生むことを目指した」というその独特な音作りは日本の音楽シーンも刺激。エンジニアのヘンリー・ハーシュが手掛けたRCサクセションの最終作『Baby a Go Go』(90年)はその好例だ。

『レット・ラヴ・ルール』のチャート・アクションは米61位/英56位が最高だったが、それから着実に売上げを伸ばし続けて米英両国でゴールド・ディスクを獲得することに。

ジョン・レノンやジミ・ヘンドリックスなど過去のロック・ジャイアンツたちと度々比較されたデビュー当時のレニーは、多重録音でアルバムを完成させるマルチ・プレイヤーであることも手伝って、ほとんど“救世主”レベルの重い期待を背負わされていた。90年初夏に予定されていた渋谷クラブクアトロでの初来日公演も即ソールドアウト(レニーの体調不良のため中止)、新人としては極めて順調な滑り出しだ。

その後、認知度が急速に高まる中でリリースされた91年の2作目『ママ・セッド』(米39位/英8位)は、彼の名を広く知らしめた“出世作”だ。
特に「ホワット・ザ・ファック」で不穏に幕を開ける日本盤の曲順には強烈なインパクトがあった。
朋友スラッシュと共演した「オールウェイズ・オン・ザ・ラン」、ショーン・レノンとの共作曲「オール・アイ・エヴァー・ウォンテッド」など話題に事欠かない本作からは、70’sソウルへの憧憬に満ちた「イット・エイント・オーヴァー・ティル・イッツ・オーヴァー」が米2位/英11位とヒット。

ロックとソウルのクロスオーバーをごく自然に体現すると同時に、ジャケット写真に象徴されるカリスマティックなアーティスト・イメージを浸透させた。
ちょうどプリンスがブラック・ロッカー的な路線からファンクへと重心を移し始めた時期に、レニーはそのポジションをタイミング良く継承。それと同時に、彼が敬愛するカーティス・メイフィールド(「スーパーフライ1990」で共演)など、ソウル界の先輩達に新たな聴き手をもたらすきっかけにもなった。

続いて、ヴァネッサ・パラディ『ビー・マイ・ベイビー』(92年)のプロデュースと並行して制作を進めていた3作目『自由への疾走』がリリースされたのは93年のこと。
レニーがフライングVを抱えて熱唱するタイトル曲のPVと共に彼のイメージを決定づけた佳曲揃いの本作は、米12位/英1位を記録。
日本でも初めてオリコンでトップ10入りを果たし、いよいよ我が国で一般的な認知を得るに至った。相棒のギタリスト、クレイグ・ロスや、後にサンタナの妻となる女性ドラマー、シンディ・ブラックマンが注目されるようになったのも本作から。
この年初めて武道館のステージにも立ち、今日までその深い音楽性が幅広く支持され、カリスマ的アーティストとしての人気を誇っている。

『ジャスト・レット・ゴー~レニー・クラヴィッツ・ライヴ』は、『ストラット』リリース後のヨーロッパ・ツアーから名演を選りすぐって編集したもの。
観て頂ければわかる通り、単なるライヴの記録ではなく、別途撮影したレニーやバンド・メンバーたちへのインタビュー、オフ・ステージでの映像もふんだんに加えて編集した、ドキュメンタリー仕立ての内容になっている。

本編の12曲を見渡すと、『ストラット』から選ばれたのは4曲。クレイグ・ロスとの絡みが観たかった「ダーティー・ホワイト・ブーツ」は、スタジオ・ヴァージョンよりも遥かにスケールアップしたワイルドな演奏が痛快だ。レニーの絶妙なソロもお見逃しなく。

後半はアコースティック・ギターの弾き語りから始まる「シスター」の美しさが格別。ワウ・ペダルを駆使したクレイグのバッキングが見事にフィットしている。
ロックンロール系の曲ではシンディのストイックなドラミングに惚れ惚れさせられる「ディグ・イン」が出色で、ホーン・セクションとの相性も抜群だ。

最大の見せ場はやはりラスト2曲。
12分近くに及ぶ長尺曲と化した「レット・ラヴ・ルール」のじわじわと高揚していくアレンジはまさにライヴならではの醍醐味。
続く「自由への疾走」は始まるなりレニーがエンジン全開で暴れ回り、圧倒させられる。この無駄を削ぎ落とした、しかし持続的なグルーヴを持つ名曲は、ヴァネッサ・パラディのセッションで彼女が到着するのを待っていたとき、クレイグとジャムりながら10分ほどで出来た曲だというから恐れ入る。そんな風に「降りてきた」究極のリフとグルーヴは、リリースから22年を経た今でもまったく錆びついていない。

~本作ライナーノーツより抜粋~

荒野政寿(CROSSBEAT)