■ ブルース・ギタリスト・クラプトン
 デビューのヤードバーズ、そしてジョン・メイオール&ザ・ブルース・ブレイカーズ、クリーム、デレク&ザ・ドミノス時代からクラプトンのライヴに欠かせないのは、その時代のシングルや代表曲はもちろんであるが、そのアレンジやサウンドこそ変われど、終始一貫、ブルース・ナンバーのカヴァーが必ず取り入れられ、常にライヴのハイライトとなっている。

 ブルース・ブレイカーズやクリーム時代にはあのテクニックは完成され、そしてデレク&ザ・ドミノス時代からは更に磨きをかけ、白人ブルースの第一人者の座を得ることとなる。70年代中盤以降も「いとしのレイラ」のリヴァイヴァル・ヒットや、「アイ・ショット・ザ・シェリフ」、「ワンダフル・トゥナイト」等を立て続けにヒットさせたクラプトンであるが、これまでのセット・リストの多くはラスト・ナンバー(「コカイン」、「いとしのレイラ」等)の前に、スロー・ブルース・ナンバーを演奏することが多く、『いとしのレイラ』や『デレク&ザ・ドミノス / イン・コンサート』、『エリック・クラプトン・コンサート / EC WAS HERE』、『24ナイツ』等での名演でファンに人気の「愛の経験 / Have You Ever Loved A Woman」を始めとして、多くの名演を生んできた。
スロー・ブルースのギター・プレイはクラプトンの最大の魅力である。
■ スロー・ブルースの最高峰「リトル・クイーン・オブ・スペイズ」
 今回そのナンバーに充てられたのは、敬愛するブルース・ミュージシャンの「クロスロード」と同じ、ロバート・ジョンソンのカヴァー曲「リトル・クイーン・オブ・スペイズ」である。この曲は敬愛する彼へのトリビュート・アルバム『ミー& MR ジョンソン』に収録されていた曲であるが、今回のこの作品の収録曲の中でも特に完成度が高く、これまでの彼のライヴのブルース・ナンバーの中でも出色の出来であり、彼の歴史の中でトップ10に入るであろうブルースの名演で、これが日本武道館のライヴであることは日本人のファンとしては、極めて喜ばしいことである。

 演奏スタイルは師匠でもあるアルバート・キング等の流れるようなフィンガリング・スタイルをルーツに、弾き続けてきた50年もの間に進化させていったクラプトン・ブルースの最高峰であるといっても過言ではない。

 ギター・サウンドは極めてストラトキャスターらしいドライなクリーン・トーンでプレイされ、ヴォーカル・パートや熱いクリス・ステイトンのエレクトリック・ピアノと、ポール・キャラックのソロに挑発されたのか、クラプトンのソロはこれまでになく熱い。ヴォーカル・パートはキーをCでプレイしていたが、ラストのクラプトンのソロ・パートに入ったとたんにキーをDに上げ、そのクリーンなトーンからドライヴ・モードにギア・チェンジ、いぶし銀のプレイながらもその緊張感溢れるソロが凄まじく、ブルース・キャリア50年の最終型の演奏を堪能出来る。

 歌いながらリード・ギターを弾くプレイヤーにしか出来ない、その絶妙な間の取り方は絶品! ヴォーカルとギターの絡みは長年プレイし続けたクラプトンならでは。プレイヤーだったらこの楽譜では表せないその素晴らしいフィンガリングとピッキングの素晴らしさを、是非このヴァージョンで学んで欲しい。

 ロバート・ジョンソンがアコースティックでブルースを生み、マディ・ウォーターズやBBキング等の多くの巨匠がギタリストによって進化し続けてきたエレクトリック・ブルース・ギターの歴史に、クラプトンが遂に加わったと言っても過言ではないだろう。

 また、この曲はメジャー・スケールなのに対し、マディ・ウォーターズのカヴァーである「フーチー・クーチー・マン」はマイナーで、さらにスリリングなソロも聴きどころ。更に本作品にはボーナストラックも含め、アコースティック・ブルースも収録されており、クラプトンのブルースを多面的に堪能出来、その素晴らしさは言うまでもない。
■ クラプトンと愛器ストラトキャスター
 クラプトンの愛器といえば、何と言ってもフェンダー・ストラトキャスターである。60年代末期からは45年に渡り使用、『いとしのレイラ』を生んだサンバーストの通称・ブラウニーや、70年代中盤から80年代に膨大な名演を生んだブラッキー、そしてフェンダー社が制作した彼のシグネチャー・モデルも約25年もの間に何本も制作され、我々を堪能させてくれた。今回も数多く改良されたシグネチャー・モデルの完成型ともいえる愛器の素晴らしいサウンドが、ラスト・ツアーに花を添えている。

 今回の映像では、プレイ中の彼の手元がアップになることが多く、彼を目指すギター・プレイヤーには必見、教則本としてもギタリスト必見である。また、舞台の裏にセッティングされたギターやギター・テクニシャンのインタビューも収録され、ファンには侮れない映像が多数収録されている。見る人が見ればそのプレイやサウンドの秘密が解き明かされることだろう。
佐藤 晃彦 / JEFF SATO