世界中の音楽ファンを虜にする秘密が明らかに!
カプースチンは1937年ウクライナ生まれ。
本格的なクラシックの素地の上に、スウィング・ジャズからビバップ、ラテン、ロックなどさまざまな語法やリズムを用い、さらに現代音楽の感性を取り込んだ独自の書法に到達しました。
この新しいピアニズムは類例を見ないものとして、多くの音楽ファンを魅了。日本でも、急速に人気を高めています。
15年にわたって直接カプースチンと親交を持つ著者が、その音楽の特徴、人物、人生、エピソード、そして名曲紹介や演奏の際のポイントなどを解説。カプースチンファンはもちろん、新しい音楽に出会いたいクラシック/ジャズファンに、ぜひ知っていただきたい一冊です。
著者: | 川上 昌裕 |
定価: | 2,200円 + 税 |
仕様: | 四六判縦 / 208ページ |
商品番号: | GTB01094711 |
発売日: | 2018年8月26日 |
ISBN: | 9784636947113 |
試し読み (まえがきより)
ニコライ・カプースチンという作曲家の存在が、最近注目を集めています。
すでに10年前となる2008年には「世界中のピアノ・ファンを熱狂の渦に巻き込んでいる話題の作曲家」というコピーまで出ましたが、実際にピアノ曲から始まって彼の作品は次第に知られるようになり、今ではその音楽は世界中でよく演奏されるようになってきました。
いくつか例を挙げると、2011年のチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で、第2位を獲得した韓国のソン・ヨルムがコンクールの二次予選でカプースチンの《変奏曲 作品41》を弾きました。
彼女はその後も自身の演奏会で何度も弾き、CD録音もしています。
また2013年の10月には、中国のユジャ・ワンがカーネギーホールでやはり《変奏曲》をプログラムに入れ、自身のリサイタルでもカプースチンの作品をよく演奏しています。同じ頃に、ロシアのアレクセイ・ヴォロディンも《ピアノ・ソナタ第2番》をプログラムに組んだリサイタルで世界を回りました。ヴォロディンはカプースチンから《ピアノ・ソナタ第19 番》を献呈されています。
このように世界の第一線で活躍しているピアニストたちが大きな舞台でカプースチンを取り上げるようになり、CD録音やリサイタルなどで演奏したアーティストの数はかなり多くなりました。
カプースチンの曲が生演奏やインターネット上で簡単に聴けるようになると、その存在はあっという間に世界に広まりました。そのスピードはかなり速かったと思います。
2018年の現時点で、YouTubeなどネットで聴ける演奏だけでももう数え切れないほどです。日本でもコンクールや音大の入試の課題曲にも取り上げられるようになり、ピアノ曲が他の楽器編成にアレンジされて演奏された例もあります。
作曲家カプースチンの大きな特徴の一つは、それまでのクラシック音楽には見られなかったジャズの新しい語法がさまざまな形で取り入れられたことでしょう。
19世紀末までにブルースやラグタイムがアメリカで発祥し、ジャズという新しい音楽が生まれました。多くの才能あるミュージシャンたちによってジャズはダイナミックに発展してきました。カプースチンは、同時代の作曲家としてその流れの中で発展し続けてきた音楽のさまざまな要素を、これまでにないやり方でクラシック音楽に取り込みました。
その音楽は生き生きとしたリズム、斬新なハーモニーに彩られています。
20世紀にはもちろんクラシック音楽にジャズや他の音楽の要素を取り入れた作曲家は存在しましたし、ジャンルの垣根を飛び越えた演奏家たちの活躍もありました。しかしその中で、カプースチンの存在はひときわ飛び抜けているように思います。それはすでに生み出された作品数の多さと、その音楽の多彩さにもはっきり表れていると言えるでしょう。
カプースチンはウクライナ生まれのロシアの作曲家です。モスクワ音楽院で研鑽を積んだピアニストでもあります。突然クラシック音楽界に現れたニコライ・カプースチンとはいったい何者なのか。そしてその音楽はどのようなものなのでしょうか。
私は長い間ピアノを専門に勉強してきましたが、ちょうど2000年頃にカプースチンという作曲家の存在を知ることとなり、その素晴らしい音楽に感銘を受けてやがてその作品を演奏するようになりました。
それから約20年が経ちましたが、その間、この作曲家に会いにロシアへ何度も足を運び、また楽譜の校訂出版も手がけたため、約15年にわたってほぼ途切れることなくメールのやり取りもしてきました。それはこの特異な作曲家の考えを直接知ることができる貴重な経験でもありました。