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YO's ROOM 後藤洋の吹奏楽の部屋

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第3回:新メンバーが楽しみながら成長する、教育的なレパートリー特集

4月に入部した新入生の様子はいかがですか? そろそろ吹奏楽部の活動に馴染んできた頃でしょうか?
1年生がコンクール・メンバーに加わるバンドも多いので、先輩と一緒に合奏に参加し始めた新入生もたくさんいることでしょう。

もちろん楽器を手にしてひと月余りの初級者が、コンクールの課題曲と自由曲をすぐにちゃんと演奏できるはずはなく、今は、とりあえず上級生の隣りに座っているだけの、いわば「見習い」の状態のはず。たしかに「見習い」で学ぶことは多いですし、出す音は限られていても、コンクールの舞台を踏むだけでも大きな経験になります。しかし、音楽的な経験が乏しく、まだ奏法がちゃんとできていない初級者にグレードの高い作品を無理に演奏させることは、その後の成長を考えると好ましいとはいえません。本来、楽器の演奏は、段階を踏んで少しずつ上達していくものなのです。しかも、コンクールの練習で新入生が演奏する音が限られるということは、彼らが音を出す機会が奪われるということでもあり、やはり上達が妨げられてしまいがちです。

新メンバーには、コンクールのための練習とは別に、できるだけたくさん音を出させましょう。彼らが演奏できる「曲」を演奏させましょう。今回は初級のメンバーでも無理なく演奏でき、しかも楽器の演奏技術や音楽の内容や表現について学ぶことができ、そして楽しく美しい曲をいくつかご紹介することにします。これらの曲に、上級生もコンクールの練習の合間に取り組んでみてください。下級生にお手本を示すと同時に、自分たちのさまざまな基本的な問題をチェックするためにも役立ちますよ。

古いブロックのかけら,That Chip Off the Old Block

アンドリュー・バレント,Andrew Balent Grade 1, 1:45 Ludwig Masters

古いブロックのかけら,That Chip Off the Old Block

まずは2013年の新譜から1曲ご紹介しましょう。ウッド・ブロック(1個)のソロとバンドのかけ合いで構成された、やさしく楽しい小品です。各楽器の音域は1オクターヴ以内で、小太鼓の一部に16分音符が使用されている以外は、4分音符と8分音符のみ。休符も効果的に使われているので、正しくリズムを数え、「休む」ための練習としても有効です。ウッド・ブロックは同じパートを数人で演奏してもかまいません。ほかの打楽器は、小太鼓、大太鼓、グロッケンシュピールが用いられていますが、人数に限りがある場合は小太鼓だけでもよいでしょう。管楽器は1パートずつなので、かなりの少人数でも演奏できます。

タイトルは「親に(よい意味で)そっくりな子」、いわば「蛙の子は蛙」といったような意味の成句。ウッド・ブロックのBlockに引っ掛けたネーミングのようです。

モーニング・ミスト,Morning Mist

ロバート・シェルドン,Robert Sheldon Grade 1,2:30,FJH

モーニング・ミスト,Morning Mist

この曲も新譜です。やはりそれぞれの楽器の音域は1オクターヴ以内で、細かいリズムは8分音符まで。テンポもほとんど変わりません。その意味ではたしかにグレード1の作品なのですが、音楽的な内容は非常に高く、これほど豊かな和声と繊細なオーケストレーションで作られた音楽は、これまで初級のレパートリーにはほとんどなかったといってよいでしょう。淡く微妙な色彩と細やかな抒情に彩られた、穏和で美しい作品で、ハーモニーやバランス、息のコントロール、音楽のスタイルなど、表現に関する幅広い勉強の教材としても有益です。新入生だけでなく上級生がアプローチしても、多くを得ることができるに違いありません。

クラリネットとトランペットのみ2パートずつで、他の楽器は1パート。2番クラリネットはレジスター・キイを使わない音域に限定されています。打楽器は3名以内で演奏可能です。

サンクトゥス,Sanctus

ロバート・W. スミス,Robert W. Smith Grade 0.5,2:40,Barnhouse

サンクトゥス,Sanctus

一昨年出版された、グレード0.5(!)の超初級用作品。音域はどの楽器も6度以内で、使われているのは付点2分音符、2分音符、4分音符、8分音符のみ。音の跳躍も最小限に抑えられ、臨時記号は使われていません。それでいて音楽的な表情は深く、和声も変化に富み(臨時記号を使わずに和声を色彩豊かにするのは非常に難しいのです)、初級の作品とは思えないほど内容は豊かです。

タイトルは神への感謝の賛歌を指し、通常「聖なるかな」と日本語訳されます。そのタイトルどおりの、清澄な美しさが印象的な賛美歌風の音楽。合奏の基礎を磨く練習曲として、新メンバーのデビュー曲としておすすめです。

各楽器1パートずつで、打楽器は5人分のパートがありますが、グロッケンシュピールまたはヴィブラフォーンのみでも支障ありません。オプションのピアノのパートもあり、楽器が足りない場合に音を補うなど、指導の際に役立てることができます。

クレイジー・フォー・カートゥーン,Crazy for Cartoons

ロバート・シェルドン,Robert Sheldon Grade 1.5,2:00,Alfred

クレイジー・フォー・カートゥーン,Crazy for Cartoons

初級の曲は単純すぎてつまらない、とお考えですか? 決してそんなことはありません。こんな楽しくエキサイティングな曲もあります。往年のアメリカの(たとえば『トムとジェリー』のような)アニメーション映画のサウンド・トラックを模した、ユーモア溢れるコンサート・ピースです。技術的には非常にやさしいものの、半音階やシンコペーションのリズム、さまざまなアーティキュレーション、スウィングやワルツなどのスタイルが盛り込まれ、演奏効果を高めると同時に、楽しみながら楽譜を読み、理解し、表現するよい教材にもなります。

クラリネット、アルト・サクソフォーン、トランペットが2パートずつで、他の楽器は各1パート。ラチェット、水笛(鳥のさえずり)、スライド・ホイッスル、ムチなどの「効果音」を担当するさまざまな楽器が要求されているほか、クラリネットやサクソフォーンがマウスピースで音を出したり、「叫び声」の指示があったりと、楽しい仕掛けが満載。この曲もオプションのピアノ・パートがあります。

ドレミの歌,Do-Re-Mi

リチャード・ロジャーズ&オスカー・ハマースタインII世/ポール・ラヴェンダー編曲,Richard Rodgers & Oscar Hammerstein II/arr. Paul Lavender Grade 1.5,1:35,Hal Leonard

ドレミの歌,Do-Re-Mi

1993年に出版された少々古い楽譜ですが、おすすめです。《サウンド・オブ・ミュージック》の中のおなじみの名旋律を、「ドはドーナツのド」と歌い出す前の、マリアが語るように歌うイントロの部分から編曲しています。臨時記号が出てくるためグレードは1.5となっているものの、音域はほぼ1オクターヴ、使われているのは8分音符までなので、実際にはグレード1といってよいでしょう。

曲に入る前に、この曲の特徴である付点4分音符+8分音符のリズムの練習、さらに全員で旋律を演奏する練習ができるようになっており、また曲の中でも、すべての楽器に旋律が回ってくるなど、教育的に配慮が行き届いています。各楽器1パートなので、少人数でも大丈夫。

ディズニー・マジカル・マーチ,Disney’s Magical March

エリック・オスターリング編曲,arr. Eric Osterling Grade 2,1:50,Hal Leonard

ディズニー・マジカル・マーチ,Disney’s Magical March

《ドレミの歌》と同様、おなじみの旋律を含む曲です。初級メンバーが取り組む曲は、できればこのような親しみのある内容の作品を選びましょう。聴いたことのある旋律が出てくるだけで、練習の意欲がわいてきます。特にディズニーの音楽はほとんど「流行り廃り」がないので、永く活用できるというメリットもあります。

2003年に出版されたこの《ディズニー・マジカル・マーチ》は、『メリー・ポピンズ』の〈スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス〉、『ジャングル・ブック』の〈ハティ大佐のマーチ〉、それにおなじみの〈ミッキーマウス・マーチ〉の3曲のやさしいメドレーで、マーチのスタイルを楽しみながら学ぶことができ、またコンサートや行事でも活用できます。B♭とE♭の2種類の調、2/4と6/8の2種類の拍子が使われているため、グレードは2となっていますが、その分よい勉強になるに違いありません。編成は小さく、クラリネットとトランペット以外は各楽器1パートずつです。

やさしいバロック組曲,Easy Baroque Suite

ロベルト・ファン=ベリンヘン編曲,arr. Robert van Beringen Grade 2,4:30,De Haske

やさしいバロック組曲,Easy Baroque Suite

 これもおなじみの旋律をもとにした作品です。クラークの《トランペット・ヴォランタリー》、クリーゲルの《メヌエット》、ヴィヴァルディの《四季》から〈春〉、そしてヘンデルの《ハレルヤ・コーラス》というバロック時代の名曲をやさしくアレンジし、4つの楽章からなる組曲に仕立てたもの。原曲や関連楽曲を鑑賞したり、形式や演奏形態(協奏曲やオラトリオなど)に目を向けたりと、さまざまな教育的な活用が可能で、初級バンドのコンサート・ピースとしてもすぐれた内容です。人数に余裕のあるバンドは1年生のみでコンクールに挑戦、ということもあるようですが、そのような場合の自由曲としても好適ですし、また小学校のバンドにもおすすめです。

この組曲のもうひとつの大きな特徴は、わずか3つのパートと省略可能な打楽器パートのみの、いわゆる「フレックス編成」で書かれていること。高音域、中音域、低音域を担当する3つの楽器があれば、さまざまな楽器の組合わせで最低3人から演奏することができる、とても便利な楽譜です。

金管バンドのために編曲された版も同時に発売されているので、注文の際はご注意ください(金管バンド版はこちら)。

コラム「ディズニーは永遠のスタンダード」

バンドのメンバーの意欲と関心を高めるためにも、そしてもちろんコンサートの聴衆が楽しむためにも、おなじみの曲を楽譜のライブラリーに加えておきたいものです。おなじみの曲、といえば、つい流行りのポップスを思い浮かべがちですが、わずか数ヶ月で流行遅れになってしまう曲よりも、永く親しまれる、いわゆるスタンダードをレパートリーとして持っておくことが大切。その点、ディズニーの楽曲は多くの人に親しまれ、しかもやさしい良質の編曲が多く出ているので、おすすめです。Hal Leonardから毎年数曲出版されていますから、ご興味のある方は出版社のホームページのチェックを。


HAL LEONARD社 ディズニー関連作品の例はこちら:

ディズニー・アニメお気に入りメドレー(フレックス編成版) ピクサー・ムービー・マジック/ブラウン編曲
「ライオン・キング」より サークル・オブ・ライフ/Sweeney編曲 「ライオン・キング」より/ヒギンズ編曲
パイレーツ・オブ・カリビアン/スウィーニー編曲 「パイレーツ・オヴ・カリビアン」より/シャウニー編曲
DISNEY AT THE MOVIES/HIGGINS 「パイレーツ・オヴ・カリビアン」 サウンドトラック ハイライト
Disneyland Celebration アヴェンジャーズ/Brown編曲
「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」より キャプテン・アメリカ・マーチ/Murtha編曲 MUSIC FROM THE INCREDIBLES
「パイレーツ・オヴ・カリビアン」より/ブラウン編曲 マペット・ショー テーマ/Murtha編曲
キャプテン・アメリカ・マーチ/Brown編曲 「パイレーツ・オヴ・カリビアン」より
「ライオン・キング」 セレクション DISNEY BLOCKBUSTERS
「ライオン・キング」より 愛を感じて/Brown編曲 DISNEY SPECTACULAR

HAL LEONARD社のホームページ

後藤洋プロフィール

後藤洋プロフィール

山形大学教育学部特別教科(音楽)教員養成課程卒業。東京音楽大学研究科(作曲)、ノース・テキサ ス大学大学院修士課程(作曲および音楽教育)をそれぞれ修了。日本とアメリカの両国において、吹奏 楽と音楽教育の分野を中心に作曲・編曲家として活躍。海外で出版される吹奏楽作品の紹介、また音楽 教育としての吹奏楽の研究においても、日本における第一人者。自身が監修・編曲した『合奏の種』 『合奏の芽』(ブレーン株式会社)は、音楽表現の基礎を楽しく学ぶ新しいアイディアの教則曲集として大 きな反響を呼んだ。

2011年、ウインドアンサンブルのための《ソングズ》により、ABA(アメリカ吹奏楽指導者協会)スーザ /オストワルド賞を受賞。また「ミッドウェスト・クリニック」(2006年および2010年、シカゴ)、世界シ ンフォニック・バンド&アンサンブル協会(WASBE)世界大会(2009年、シンシナティ)等、多くの国際 的な講習会で講師を務め、いずれも高い評価を得ている。

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