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YO's ROOM 後藤洋の吹奏楽の部屋

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第1回:毎年使える! 春の行事におすすめの新しいレパートリー

これからの季節、卒業式や入学式などの学校行事はバンドの存在をアピールする大きなチャンスです。毎年活用できる、スタンダードな行事用のレパートリーをご紹介しましょう。ほとんど一昨年から昨年にかけて出版された、新しいレパートリーです。

ファルコン・ファンファーレ,Falcon Fanfare

ブライアン・バルメイジェス, Brian Balmages Grade 2, 2:00,FJH

ファルコン・ファンファーレ,Falcon Fanfare

バンドの出番にファンファーレ風の楽曲はつきもの。できれば何曲かレパートリーに加えておきたいものです。以下にタイプの異なる作品を3曲ご紹介しましょう。「これなら」という1曲が見つかるかもしれません。

この《ファルコン・ファンファーレ》は、重厚さと華やかさという、ファンファーレの音楽的な特質をバランスよく備えており、しかもやさしく演奏できるように配慮された佳作。3年生が引退した後の中学校バンドでも無理なく演奏可能で、音の形を揃えたり、バランスを整理したり、という合奏のトレーニングにも活用できます。もちろんコンサートや式典のオープニングにも好適で、特に入学式にお薦め。

打楽器は5人ほど、バンド全体は20人程度かそれ以下で演奏可能です。

第3惑星のためのファンファーレ(フレックス編成版),Fanfare for the Third Planet

リチャード・L. ソーセイド, Richard L. Saucedo Grade 2.5,2:30,Hal Leonard

第3惑星のためのファンファーレ(フレックス編成版),Fanfare for the Third Planet

2005年に出版され、現在も人気が高いコンサート・オープナーの秀作が、今回「フレックス・バンドFlex-Band シリーズ」の1曲として再出版されました。  このシリーズのスコアは5つのパートに打楽器を加えた形になっており、バンドの人数や編成のバランスに応じて、さまざまな楽器の組合わせで演奏できるという、少人数のバンドや編成のアンバランスなバンドにはありがたい楽譜です。

この《第3惑星のためのファンファーレ》の根強い人気の理由は、グレード2.5とは思えない、その高い演奏効果にあります。打楽器が刻む力強いリズムに乗り、速いテンポで一気に突き進む、というスタイルで、実にパワフルでエキサイティング。調性を逸脱したミステリアスな響きや、終結直前の一瞬の静寂など、心憎い仕掛けも成功しています。幅広い層のバンドのコンサートの開幕にお薦めです。

この曲は打楽器が多く必要ですが、ドラム・セットを使えば3~4人でやりくりすることができるでしょう。パート配分を工夫すればバンド全体で15人程度でも十分な効果を上げることができるはずです。

カーネギー・アンセム,Carnegie Anthem

ウィリアム・オーウェンス,William Owens Grade 3.5,2:00,FJH

カーネギー・アンセム,Carnegie Anthem

前の2曲よりも少しグレードは高いのですが、その華やかな響きとわくわくするようなドライブ感覚は秀逸です。速いテンポに終始するものの、場面やサウンドは次々に変化し、美しい旋律も満載。高校以上のバンドのコンサートに最適で、新学期に新入生の前で演奏すれば「吹奏楽、かっこいい~!」となることうけあいです。

タイトルは、ニューヨークのカーネギー・ホールで行われたコンサートのために作曲されたことに由来するもの。バンド全体で30人程度から演奏可能です。

威風堂々(フレックス編成版),Pomp and Circumstance

エドワード・エルガー/スコット・スタントン編曲,Edward Elger/arr. Scott Stanton Grade 2.5,2:15,Barnhouse

威風堂々(フレックス編成版),Pomp and Circumstance

《第3惑星のためのファンファーレ》でご紹介したハル・レナードの「フレックス・バンド・シリーズ」と同様の発想で作られた、バーンハウスの「ビルド・ア・バンド Build-A-Band シリーズ」の中の1曲。このシリーズもさまざまな楽器の組合わせによる5つの声部と打楽器で演奏できるように作られています。打楽器はオプション扱いで、必要であればギターやピアノを加えてもよいようになっていますから、何人かでメロディーを演奏し、それをギターかピアノで伴奏する、というやり方も可能です。

これはエルガーの《威風堂々》第1番のトリオのアレンジ。この有名な旋律は日本でもおなじみで、学校行事では卒業式の定番になっていますね。こういった「定番」こそ、良質で使いやすい楽譜を選びたいものです。この楽譜は編成がフレキシブルなだけでなく、アレンジそのものも無理なくうまくできていますから、その意味でもおすすめです。

学校行事のための入場・退場の音楽(威風堂々、シネ・ノミネ),Academic Processional & Recessional

ロバート・W. スミス、エド・ハックビー編曲,arr. Robert W. Smith, Ed Huckeby Grade 3,7:25,Barnhouse

学校行事のための入場・退場の音楽(威風堂々、シネ・ノミネ),Academic Processional & Recessional

この楽譜も《威風堂々》第1番を含むアレンジです。アメリカの学校の重要な式典における「入場の音楽」の代表であるエルガーの《威風堂々》第1番のトリオ、また「退場の音楽」のスタンダードである、ヴォーン・ウィリアムズの《シネ・ノミネ》の2曲を式典用にアレンジしてセットにしたのがこの楽譜。2曲とも荘重なファンファーレ風の導入部と堂々としたコーダが加えられて、しかも旋律は何度でも繰り返して演奏できるという、非常に効果的かつ実用的な構成になっています。上にご紹介したスタントン編曲のフレックス版よりもグレードはほんの少し高いのですが、技術的には中学生でも容易に演奏できる内容で、30人程度かそれ以下のバンドでも問題ありません。ただし《威風堂々》ではチャイムが不可欠です。

聖ヨハネ騎士修道会の荘重な入場 ,Festival Processions

リヒャルト・シュトラウス/ダグラス・ワーグナー編曲,Richard Strauss/arr. Douglas Wagner Grade 3,4:00,Belwin (Alfred)

聖ヨハネ騎士修道会の荘重な入場 ,Festival Processions’s Magical March

聖ヨハネ騎士修道会は、十字軍の時代(11世紀)に聖地エルサレムへの巡礼者を防衛、援助する目的のために創設された、ローマ・カトリックの宗教騎士団。1909年にこの修道会の儀式のためにシュトラウスが作曲した大編成の金管アンサンブル作品が原曲です。

この吹奏楽のための編曲は、原曲の主要な主題をつなぎ合わせて短く再構成したものですが、荘重な行進曲としてのオリジナルの雰囲気を残し、その上で中学生にも無理なく演奏できるようにうまく工夫されています。式典、特に入学式や卒業式の入場の場面にぜひ活用をお薦めしたい1曲です。

実用性に加え、中学生や高校生がドイツ/オーストリアの音楽を、しかもこのような高い格調とスタイルの理解を求められる音楽を演奏する機会は多くはありません。その意味においてもこの曲は貴重なレパートリーのひとつと言えるでしょう。

編成はほぼ標準的で、打楽器は6人要求されています。バンド全体で25~30人程度から演奏が可能です。

歓喜のヴァリエーション(ベートーヴェンの『よろこびの歌』による),Joyful Variations (Based on Beethoven’s “Ode to Joy”)

ブライアン・ベック,Brian Beck Grade 3.5,4:30,Alfred

歓喜のヴァリエーション(ベートーヴェンの『よろこびの歌』による),Joyful Variations (Based on Beethoven’s “Ode to Joy”)

タイトルが示すように、ベートーヴェンの第9交響曲の有名な旋律をもとに構成された祝祭的な作品です。《第9》のテーマの変奏曲という、誰でも思いつきそうなアイディアながら、その内容は非凡。ごく単純な三部形式の中で、容易に聴き取れるようにテーマの断片が提示、展開されるのですが、その旋律の全体像は最後まで完全な形では現われません。それなのに、聴き手の耳にははっきりと『よろこびの歌』が残る仕掛けになっています。「誰でも知っている旋律」の、実に巧妙な活用の例と言えるでしょう。楽器の使い方も無理がなく、サウンドは美しく色彩豊か。あらゆる祝典の場における演奏にお薦めです。

8分の6拍子の部分が多いほかは、特に難しい箇所はなく、音域もかなり狭く抑えられています。これもほぼ標準的な編成。

コラム「Grade って?」

この「吹奏楽の部屋」では、作品をご紹介する際に必ずグレード、演奏時間、出版社についても明記するようにしています。「グレード」とは「難易度」のこと。アメリカでは音楽の授業の一部として吹奏楽活動が行われているため、楽曲は「教材」であり、指導計画や学習の進度に応じて、生徒たちに適した内容と難易度のものが選ばれる必要があります。そこで「グレード」の表示が不可欠なのです。現在では、ヨーロッパの出版社の吹奏楽作品にも、ほとんどグレードが表示されています。グレードは通常1から6まで。数字が上にいくほど難易度も上がります。日本の中学生が無理をせずに演奏できるのはグレード3程度でしょう。取り組んだ曲のグレードと、その曲がどの程度やさしかったか、あるいは難しかったかを憶えておけば、選曲の際に役立ちます。

コラム「フレックス編成って?」

ここ数年、アメリカやヨーロッパの吹奏楽の作品で、「フレックス編成」で書かれた楽譜が増えてきました。これは編成全体をいくつかのパートまたは声部に分け(5パートの曲が多いようです)、それぞれのパートに複数の種類の楽器を割り当てることができるようになっている楽譜です。たとえば「パート1」をフルートでも、クラリネットでも、トランペットでも、また「パート2」をクラリネットでも、トランペットでも、アルト・サクソフォーンでも演奏できるわけで、人数が少ないバンド、楽器編成がアンバランスなバンドでも苦労せずに演奏が可能な、便利な楽譜です。今回ご紹介した曲では《第3惑星ためのファンファーレ》と《威風堂々》がこのタイプです。このような楽譜を使って演奏する場合は、曲の内容や自分たちのバンドの編成、目指すべき響きなどをよく理解した上で、最適の楽器の組合わせを考えなければなりません。その点で、通常の楽譜にはない「ひと手間」が必要になるのですが、その試行錯誤を通じて得るものも大きいはずです。また、人数が多いバンドでは、全体をいくつかの少人数のグループに分け、このような楽譜を使って、埋もれがちなひとりひとりの音と表現を磨くのも有益でしょう。

後藤洋プロフィール

後藤洋プロフィール

山形大学教育学部特別教科(音楽)教員養成課程卒業。東京音楽大学研究科(作曲)、ノース・テキサ ス大学大学院修士課程(作曲および音楽教育)をそれぞれ修了。日本とアメリカの両国において、吹奏 楽と音楽教育の分野を中心に作曲・編曲家として活躍。海外で出版される吹奏楽作品の紹介、また音楽 教育としての吹奏楽の研究においても、日本における第一人者。自身が監修・編曲した『合奏の種』 『合奏の芽』(ブレーン株式会社)は、音楽表現の基礎を楽しく学ぶ新しいアイディアの教則曲集として大 きな反響を呼んだ。

2011年、ウインドアンサンブルのための《ソングズ》により、ABA(アメリカ吹奏楽指導者協会)スーザ /オストワルド賞を受賞。また「ミッドウェスト・クリニック」(2006年および2010年、シカゴ)、世界シ ンフォニック・バンド&アンサンブル協会(WASBE)世界大会(2009年、シンシナティ)等、多くの国際 的な講習会で講師を務め、いずれも高い評価を得ている。

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