『イマジン』はいかに作られたのか? はじめて明らかになる奇跡の9日間。
制作現場、アートワーク、ミュージックビデオ、ドキュメンタリー、そして関わった人々をめぐるインサイド・ストーリーの決定版!
ジョンとヨーコの曲「イマジン」をタイトルに冠した伝説のアルバム『イマジン』。発想が生まれるところから完成まで、当時その場に居合わせたミュージシャンや技術者、スタッフらのまったく新しい理解や解釈とともに制作過程が語られる。
本体表紙は豪華箔押し&UV加工! ※クリックで拡大できます。
作品概要
傑作アルバム『イマジン』は、1971年、イギリス、バークシャーのティッテンハースト・パークと呼ばれるジョージ王朝風の邸宅に住んでいたジョン・レノンとオノ・ヨーコの頭の中で生まれ、屋敷内に作られた最先端のスタジオとニューヨークのレコード・プラントでレコーディングされた。
タイトル曲の歌詞は、1964年に出版されたオノ・ヨーコの著書『グレープフルーツ』中の「イベント・スコア」から着想を得ている。そのため2017年に、彼女は正式に「イマジン」の共作詞者と認定された。
本書の主題は、とくに創造的だったこの時期のジョンとヨーコの生活や、仕事、人間関係だ。ビデオで撮影された映像を並べた連続写真やヨーコのアート作品、彼女が表に出さず大切に保管してきた写真の数々、家の内部の写真を何枚もつなげてディテールに至るまで当時の雰囲気を正確に再現したパノラマ写真などがふんだんに使われ、読む者をふたりの家や仕事場にいるような気持ちにさせてくれる。
章ごとにそれぞれに対応する曲を掲載し、曲を紹介するジョンとヨーコの言葉が集められた。この中には今回はじめて公になるものもあるほか、現在のヨーコのコメントも添えられている。
また、本書に新たに洞察に満ちたコメントを寄せたミュージシャンや技術者、スタッフの多くは、アルバムのインナースリーブに描かれた「車輪」の中に登場している。いったいこれは誰なのかと謎に満ちていたインナースリーブの人々の正体が、本書でついに明らかになる。
本書の制作にあたっては、場所、中心的人物、曲、歌詞、制作手法、アートワークなど、すべて詳細に検証された。もちろんアルバムのカバーに使用された二重露出のポラロイド写真がどのように作られたのか、その過程についても詳しく語られている。
本書では、アルバム制作当時と同様、現代においても普遍的で核心を突くメッセージを伝えようとしている。これにより、文化史におけるジョンとヨーコの地位は確固たるものとなるだろう。
監修、訳者について
メッセージ
オノ・ヨーコさんのすごさ
翻訳するとき、作業時間の半分は調べ物に費やしています。今回特に時間をかけたのは、アート作品に関する情報を集めることでした。ジョンとの出会いのきっかけになった有名な「YES」のある《天井の絵》以外にも、この本ではオノ・ヨーコさんのアート作品がたくさん紹介されています。どれも非常に前衛的。ミケランジェロやルノアールのような具象ではないので、ぱっと見で理解した気になることはできません。それどころかただ黙って鑑賞し、したり顔をすることすらゆるされないのです。いろいろな作品について知れば知るほど、「これはすごいアーティストだ」と今更ながらに思い知らされました。
「イマジン」と『グレープフルーツ』の関係を挙げるまでもなく、ジョン・レノンにとって彼女がミューズであったことは間違いありません。しかし、訳しながら心に浮かんできた言葉は「内助の功」(もはや死語?)。天才アーティストの頭の中には、水か電気か神経伝達物質か、とにかく何か激流が走っている。それが芸術を生み出す原動力になるのだけれど、ともすれば芸術家本人もその逆巻く荒波に飲み込まれ翻弄されてしまう。そうして生活破綻あるいは性格破綻に至った芸術家もたくさんいます。しかし。ジョン・レノンにはオノ・ヨーコがいた。作品づくりから対外交渉、日々の暮らしまで、彼女がそっと寄り添っていることで、ジョンが激流に飲み込まれることなくその天才を遺憾なく発揮できたのだ、ということがこの本から感じられます。
そんな「内助」をすることと、自身もアーティストとしてクリエイティブに活躍することを両立してのけたオノ・ヨーコさんは、ほんとうにすごい人だ! と思いました(締切が迫ると妻主婦母の役割を完全放棄するどこかの翻訳屋に爪の垢を煎じて飲ませたい)。
しかも、彼女の作品には、ジョンも感じていたように、見る者、そして世界中の人々への温かい愛とユーモアが満ちている。そんなアーティストとしてのオノ・ヨーコさんと、ジョン・レノンのミューズであったヨーコ・オノ、そしてその妻であったヨーコ・オノ・レノン。
その3つの顔がどのようにして相剋することなくひとりの人物の中に収まっているのか、この本を手に取ってくださったみなさんにも考えていただければ幸いです。
岩井木綿子(翻訳家)
愛こそはすべて
若いころ、挫けそうになるたび、「All You Need Is Love」と呟いて自分を奮い立たせていた時期があります。翻訳をやりたいと言えば「食えないよ」、恋人について話せば「そんな人やめなよ」。当時の私はやることなすこと周囲から反対されていたのです。
最初はみんな私を心配してそう言ってくれているのかと思いましたが、あるとき違うと気づきました。「考えてみたら、一番身近な家族は案外そういうことを言わない。頭ごなしにやめろとお説教をしてくるのは親戚とか同僚とか、ちょっと距離のある人たちだ。彼らが自分たちの中にある不安を私に投影してやいやい言ってきているだけなら、そんなものに付き合う義理はない」と。
“できないことはない。それをするために必要なのは愛だ。愛だけあればいいんだ。”
内から湧き上がる前向きで熱い感情、体温を上げてくれるもの、それが私にとっての愛の定義です。
これ以外にも、ジョンとヨーコの紡いだ言葉に励まされることが何度もあったので、今回訳す機会に恵まれて、不思議な縁を感じました。
作業中は、この言葉の裏にはこんな背景があったんだとか、真意はこうだったんだとか、発見の連続で、驚くことしきり。
読者の皆様にも、何かしら心に届くものがあればと願っています。
川岸 史(翻訳家)