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調性で読み解くクラシック

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最新更新日:2024年2月1日

1冊でわかるポケット教養シリーズ

吉松 隆の 調性で読み解くクラシック

長調は「楽しい」、短調は「悲しい」?作曲家はどうやって調性を選ぶの?調性については不思議なことがいっぱい。
作曲家の吉松隆氏が分かりやすく解説します!
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和声法だのコード進行だのを何も知らなくても、
最後の「ジャーン」という和声に辿り着くと誰でも「ああ、終わった」という解放感に満たされる。
この書では、そんな「ハーモニー」や「調性」の謎と秘密について、独断と私見も含めて解説してゆこう。(本書「はじめに」より)
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特集記事 -Interview-

“1冊でわかるポケット教養シリーズ”から2014年9月にリリースされた『吉松隆の調性で読み解くクラシック』が、音楽書の話題を集め増刷が続いています!
ヤマハ銀座店の書籍売上ランキングでは発売から1年間連続1位を記録している本書は、専門的に音楽を学ぶ人だけでなく、幅広い層に支持されています。
そこで今回は、著者である作曲家・吉松隆さんに、この本の魅力についてお話をうかがいました。

僕の音楽人生は、「何でこの曲聴くと涙が出るの?」というところからスタートしました。

──“調性”という言葉は、ちょっと難しいなと思うのですが……。

我々が日常生活の中で、「今日は調子がいい」とか、「調子に乗ってる」とか言うでしょう。“調”という感覚自体は、私たちの日常に言葉として染み付いているものなんです。
その「調子」をクラシックで難しく言うと、ハ長調、ヘ長調とかいう「ハーモニー」のシステムになんですけど、うまく響けば「調子がいい」、鳴りにくければ「調子が悪い」「調子が狂う」となる。同じですよ。

おもしろいのは、この「調子」の善し悪しは単なる「感じ」だけでなく、科学的な裏付けもあるということですね。しかも東洋と西洋、キリスト教と仏教など、民族や文化的背景によって「調子が良い」の定義は変わってくるわけです。そういったことを、いろんな視点から解説したのがこの本です。

──作曲する時、調は最初に意識するものですか?

現代のモダンオーケストラの場合、楽器の性能も演奏技術も進化していてほとんどすべての調を自在に使えるのであまり考えなくていいのですが、特定の楽器にソロを取らせる場合、一番の聴かせどころではその楽器の一番いい音を出したいですよね。
すると、どのキーを使うかという問題は非常に重要になってくる。なので、一番聴かせたい音をもっとも効果的に使うために、逆算して音楽を積み上げていくこともありますし、逆にもっとも鳴りにくい音を意識して使うことだってあります。

たとえば、「展覧会の絵」のように異教徒的な響きがする音楽の場合、白鍵だけだときれいに響きすぎちゃうけど、黒鍵だらけにすると不思議な響きに持ち込めるなんてこともありますしね。
楽器もそうだけど、音楽家にもそれぞれ“自分好みの調性”があるようで、僕の場合はト短調やニ短調が多い気がします。長調は苦手ですね(笑)。

僕の作品を聴いた人から、「鳥が鳴く時、必ずマイナーキーで鳴いてる」とか「今回は長調で鳴いてるけど珍しいね」なんて言われたり……。ただ僕は、いわゆる長調短調でなく、ドーリアやフリギアのようなモード(旋法)で書いているから、あまり長短調の枠にははまらないのですが。
たぶん影響を受けた音楽や思想、あるいは出身などの文化的背景によって、その人がどんな調性で感動するかは微妙な個人差があります。そして、それによってその人のルーツをたどることもできるのではないかと、この本を書いていて感じました。

──日本では、西洋音楽のような“調性”の概念が薄いのですか?

日本に西洋の“調性”という概念が入ってきたのは、明治中期頃になってから。つまり、たった百数十年ほど前の話なんです。
今では幼少期からあたり前のように「ドミソ」を習うので、僕たちはそれが音楽の基本だと思っているけれど、西洋音楽が入って来た当初は、日本人にドミソを歌わせると、どうしてもミの音を半音低く歌っちゃう。
たとえば「ひな祭り」という曲(♪今日は楽しいひな祭り~)は、短調にもかかわらず「楽しい」と歌ってるでしょ(笑)。長調よりも短調の方が、日本人の体に染みついていたんです。

ちなみに、もっとむかし平安京の時代、日本は「雅楽」が音楽の中心だったわけですが、そこでは平調(ひょうじょう)とか壱越調(いちこつちょう)という六つの調があって、調それぞれに対応する季節(春夏秋冬)や方角(東西南北)などが決まっていた。
ということは、東からは東の音、季節が夏なら夏の音が鳴らなくてはいけないわけです。そこで、平安京のお役所には音楽を取り仕切る部署があって、毎日毎日「今日は何調の曲を演奏すべきか?」を専門スタッフが徹底的に研究していた。
今からすると非科学的だけど、当時は「国の安泰」とか「世の平安」に関わる重要で厳密な音楽理論だったのです。その時代には、当然まだ西洋音階も入ってきてなかったし、そもそも長調や短調という概念がないわけで。

じゃあ、何で長調を聴いたら楽しくて、短調を聴いたら悲しいなんて言い出したんだろう? なんて素朴な疑問もわいてきますよね。
ドミソという西洋の三和音が、数学的にも美しく確立されたものであることはわかるんだけど、何となくキリスト教的な音楽の概念として押し付けられたような気もしたり……。

実際、200年前の日本にタイムスリップしたらドミソはなかったわけですし、当時の日本人は西洋人の鳴らすドミソと4拍子の音楽を「気持ち悪い」と感じ、西洋人は日本人の音楽を「非音楽的なヘンテコな響き」と言ってたそうですから。

日本の場合、きれいに整った丸(長調)よりも、少し傾いている方(短調)が美しいといういわゆるワビサビ的な美的感覚もあるわけです。
それは民族的な価値観の問題なのですが、この本を読んでそういった部分にも考えを巡らせていただけるとうれしいですね。

※2023年12月8日をもちまして、一部の音源公開を終了いたしました。

音源視聴 -Listening-

本書の「scale6」に掲載している一部の音階と旋法を音源でご紹介! 読んで聴いてお楽しみください。
音源紹介箇所: 【scale 6】それぞれの調性の特徴と名曲(p194~199)

[そのほかの音階/施法]

アトムのオープニングで有名

全音階独:diatonische Tonleiter 英:diatonic scale

  • 全音階

現代音楽の基礎となった「無調」

12音音階独:Zwölftöne Skala 英:twelve-notes scale

  • 12音音階

おもに中世ヨーロッパの教会で使われた

教会旋法

  • ドーリア

  • フリギア

キャラクターのはっきりした民族固有の旋法

5音音階独:pentatonische Tonleiter 英:pentatonic scale

  • 5音音階

ジャズやブルースの基本「ブルー」な響き

ブルーノート・スケール英:blue note scale

  • ブルーノート・スケール

メシアンによる半音だらけの音階

移調の限られた旋法

  • 移調の限られた旋法

半音よりさらに狭く、もはや聞き取り不能

微分音階

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