■ ブームに火をつけた『アンプラグド』、そしてヴォーカリスト、クラプトンの魅力確立
 エリック・クラプトンといえば「神様」と讃えられるほどのギター・プレイ&テクニックを誰しもがまず思い浮かべるハズだが、長いキャリアを重ねていくうち、もうひとつの魅力の太い柱となったのがそのヴォーカル・パフォーマンスだ。特に最近の女性ファンの多くは何よりも彼の歌声に魅せられているのではないだろうか...と安直に想像をめぐらしてしてしまうほど、クラプトンの近年の歌声からは、円熟しきった男の乾いた色気と、滋味さえ漂うほどの風格がにじみ出ている。

 1992年に発表されると程なくロック系のアコースティック・アルバムとして異例ともいえるヒットを記録したクラプトンの『アンプラグド』。アンディ・フェアウェザー・ロウ(g)をはじめとする当時のレギュラー・グループのサポートを受け、アコースティック・ギターをもったクラプトンが「レイラ」「ティアーズ・イン・ヘヴン」といった代表曲やブルースの数々を例の少し頼りなげな・繊細な声で歌い継いでいくのだから、悪いはずがない。

 湯上りに浴衣をきたクラプトンが手ぬぐいを肩にかけ縁側で演奏しているような…そんなCM的な構図を想像させる設定もリスナーがとりことなった一因だろう。

 本人にしてみれば何となしに引き受けただけの企画だったかもしれないが、開き直った「アンプラグド」スタイルに挑戦しそれが大ヒットしたことで、当時は試行錯誤中だったと思われるアダルト路線のクラプトンのヴォーカルにはそれ以後、明らかな自信と余裕が伴うこととなったのだ。
■ “レジェンド”クラプトンを味わい尽くすなら今、それも是非ライヴを!
 『アンプラグド』以来20年以上の月日が流れ、その間にはブルースの大御所B.B.キングとのコラボ・アルバムやあのロバート・ジョンソンの作品集があったり、また近年では世界中の名ギター・プレイヤーを一堂に集める「クロスロード・フェスティバル」を主宰したりと、本当にキャリアの総括を行っているのでないかと思えるほどだ。ギター演奏においてもヴォーカルにおいてもクラプトンの技量とニュアンスの豊かさは誰もが認める円熟の極みにあり、このアーチストを味わい尽くすなら、正に今が最適なのではないだろうか。

「レジェンド」と呼ばれるロック・ミュージシャンは数少ないが、毎年のように来日公演を行ってくれる日本人にとって非常に近しい存在のクラプトンが辿りついたそんな境地を、今回の映像作品『プレーンズ、トレインズ&エリック ~ ジャパン・ツアー 2014』でぜひ体験してみていただきたい。ネイザン・イースト(b)やスティーヴ・ガッド(ds)他のわかりあえている連中に囲まれているからこそのことではあるが、ごくごく当たり前に流れていくギター・プレイとヴォーカルの天衣無縫っぷりには、ファンのみならず深い感慨を抱かずにはいられないハズだ。
■ 本作で味わえる“ロック・ヴォーカリスト”クラプトンの円熟
 例えば1曲目の「テル・ザ・トゥルース」はどうだろう。ワイルドで腰の据わった歌いっぷりには包容力も溢れ、芯の太いエリックの声7本目のギター弦のような、楽器そのものといった響きだ。

 例えば94年の全曲ブルースのカヴァー・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』からの「ドリフティン」。10年×2のエイジングが進んだというだけでなく、穏やかな凄みとも言えばよいか、そんなシブい輝きが新たに加わっている。

 例えばクラプトンのキャリアきってのバラード「ワンダフル・トゥナイト」と「ティアーズ・イン・ヘヴン」。ヴォーカルの丁寧な節回しは、ライヴ・ハウスでの経験を積み上げてきたシンガー・ソングライターのそれのようにも聞こえてくる。

 そして『アンプラグド』でも取り上げられていた「ビフォア・ユー・アキューズ・ミー」におけるロックとブルースのニュアンスが入り混じった絶妙な加減といったら、ない! これこそがオリジナルなスタイルと言うべき、クラプトンの現在の魅力が集約されたトラックである…等々。
 もちろん、ロック節がみなぎる「アイ・ショット・ザ・シェリフ」などが往年のロックファンを当たり前のように喜ばすであろうことも付け加えておく。

本人にとってサウンド的な意味での進化はこれ以上はないのかもしれない。しかしこの数年のクラプトンはそれがあろうが無かろうが、ますます・もっともっと観たい気にさせてくれるようなそんな希有な存在になったのではないかと、今回の映像を観て改めて思った次第だ。 
逢瀬 成(おうせなる)